大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)1707号 判決

被告人 小山田清

〔抄 録〕

しかしながら、職権をもつて按ずるに、昭和三十年二月一日付追起訴状は公訴事実第一について被告人が原審相被告人長谷川宗一郎と共謀して昭和二十八年八月中旬頃及び昭和二十九年八月中旬頃盆踊を実施し、昭和二十八年八月下旬頃子供角力を催し、昭和二十九年三月上旬頃栄町会館に右長谷川名義で引幕を寄附すること等に際し、その都度右被告人等居住地附近の住民から寄附金名下に金員を喝取せんことを企てと冒頭に掲記し、次いで別紙犯罪一覧表記載のとおり昭和二十八年八月初旬頃より翌二十九年三月上旬頃までの間四十回に亘り難波孝治外十六名よりそれぞれの記載のように合計金四万九千円の交付を受けて喝取したと恐喝の犯罪事実を掲記しておるのであるが、その附属の犯罪一覧表によれば、犯罪回数は四十一個の事実が記載されており、その日時の点において前記始期昭和二十八年八月初旬頃より前に当る昭和二十七年七月下旬頃の二回の犯罪事実(番号二三と二四に当る)、前記終期昭和二十九年三月上旬頃より後に当る昭和二十九年八月初旬頃及び中旬頃の七回に亘る犯罪事実(番号六、八、一四、一八、三四、三六、三九に当る。)が掲げられているのである。すなわち、犯罪の回数において本文において四十回といいながら一覧表には四十一個の恐喝の事実が記載されており日時の点においては本文における期間を越える前後に亘つて記載されており、これを本文冒頭の寄附金名下に金員を喝取する口実とした各催事が昭和二十七年七月頃の分は本文冒頭に記載なく、ただ、昭和二十九年八月頃盆踊の催事が掲げられているところよりみれば前者は起訴の内に含まれて居らず後者はこれを含む趣旨で本文において終期を昭和二十九年八月頃とすべきを同年三月上旬頃と誤つたものとも推測できないこともないのであるが、かかる曖昧な記載のある起訴状を受けた裁判所としてはよろしく釈明権を行使して検察官に質問してこの曖昧な記載を正確にし起訴の範囲を確定すべき筈のものであつたのである。しかるに原審はことここにいでず、これを看過して審理を終了し原判決においてはその被害金額について右起訴状添付の一覧表番号二三の犯罪につき千円とあるを五百円(原判決添付の一覧表では番号二二に当る)、同三五の犯罪につき千円とあるを三千円(原判決では前同一覧表番号三四に当る。)と起訴状と異なる認定をした外、すべて右起訴状記載のとおりの恐喝の各犯罪事実を認定し、以上被害金額合計に差異を来したのにかかわらずこれを依然四万九千円としているのである。従つて、原判決の認定した事実は審理不尽に由来して前に指摘したように日時回数の点において前後矛盾する認定に陥り、その事実理由自体に刑事訴訟法第三百七十八条第四号所定の違法が存するのみならず、原判決は、各恐喝の所為一個毎に一の恐喝罪の成立を肯認していることその擬律により明らかであるが、右原判決添付の一覧表番号三四の犯罪事実は、訴因変更手続を経由せず恐喝の被害金額を起訴状記載のそれより拡大して認定しているのであるから、被告人の防禦に不意打を与えるものであつて、これ又その訴訟手続に判決に影響を及ぼすことの明らかな訴因変更手続に関する法令違反が存するものといわなければならない。

更に原判決の擬律に徴せば原判決は被告人の各所為を各別に一個の恐喝の犯罪を構成するものとし、すべてが刑法第四十五条前段の併合罪の関係にあるものとしているのであるが、記録編綴の昭和三十年六月二十日東京地方検察庁検察事務官伝法谷弘作成にかかる被告人の前科調書(記録第八〇九丁)の記載によれば、被告人には(一)昭和二十七年八月三十日渋谷簡易裁判所において銃砲刀剣類等所持取締令違反罪により罰金二千円に処せられ(同年十二月十六日確定)、(二)昭和二十八年八月十二日同裁判所において罰金一万円に処せられ(同年九月二十八日確定)、(三)昭和二十九年二月十八日東京地方裁判所において傷害罪により懲役六月(但し三年間執行猶予)に処せられ(同年三月五日確定)右三つの前科が存することが明らかであるから、本件各犯罪の擬律に当つては右各確定判決以前の各犯罪とその確定判決に係る罪とが刑法第四十五条後段の併合罪の関係にあるとともにその各犯罪相互の間には同条前段の併合罪の関係にあることを考慮すれば、本件においては右法条を適用して被告人に対しては原判示第一の各犯罪、原判示第三の各犯罪を通じ三個又は四個の刑(三個の刑というのは前記釈明の結果(一)の判決確定の昭和二十七年十二月十六日以前に各犯罪のないことが明白になつた場合であり四個の場合はその日以前に前に指摘した犯罪が起訴状に包含されている場合である。なお、原判決添付の一覧表には昭和二十九年三月上旬頃の犯罪が数個存するのであるが前記(三)の前科は同月五日にその判決が確定したものであるから、この上旬の日時を更に明確にする必要が生ずる。)を主文において言い渡すべき筈のものである。しかるに原判決は、この前科の存在を全く看過して前叙のように全てを通じて刑法第四十五条前段のみを適用して主文において一個の懲役刑をもつて処断しているものであるが故に、原判決にはこの点において判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤が存するものである。

従つて原判決中被告人に関する部分はいずれにするも以上の違法により破棄を免れないから、刑事訴訟法第三百九十七条に則りこれを破棄するが、本件においては、なお事実関係について審理確定を要すべき事項の多数存すること前叙のとおりであるから、同法第四百条本文に従いこれを原裁判所に差し戻すこととする。

(大塚 渡辺辰 江碕)

注 原判決第一の事実並びに別紙犯罪一覧表

被告人長谷川宗一郎、同小山田清は共謀の上、昭和二十八年八月中旬頃及び昭和二十九年八月中旬頃、何れも渋谷区幡ケ谷本町三丁目三百九十三番地元村邸跡空地に於いて、盆踊りを実施し、昭和二十八年八月下旬頃同町二丁目二百七十三番地広場に於いて子供角力を催し、更に昭和二十九年三月上旬頃、中野区栄町一丁目六番地栄町会館に被告人長谷川宗一郎名義の引幕を寄附すること等に際し、その都度、被告人等の日頃の言動が町民より怖れられているのに乗じて右附近の町民よりその寄附金を集めると言う名目で金員を喝取しようと企て、右長谷川が別紙犯罪一覧表第一表の通り昭和二十八年八月初旬頃より昭和二十九年三月上旬頃までの間に四十回に亘り、灘波孝治外十六名に対し同表脅迫方法欄記載の如き方法にて脅迫して夫々寄附金名下に金員を要求し被告人等の平生の言動を知悉している同人等をして、若し要求に応じなければ被告人両名より因縁をつけられ又如何なる危害を受けるかも知れないと畏怖させ因つて、その都度、右寄附金名下に同表記載の如く同人等より合計金四万九千円の交付を受けて之を喝取したものである。

犯罪一覧表(第一表)

番号 犯行日時 被害金品

1 昭和二八年八月下旬頃 一、〇〇〇円

2 同   年九月上旬    五〇〇円

中略

22 昭和二七年七月下旬頃   五〇〇円

23 同   年七月中旬頃 一、〇〇〇円

24 同 二八年八月上旬頃 一、〇〇〇円

中略

33 昭和二九年八月中旬頃 一、〇〇〇円

39 同 二八年八月下旬頃 一、〇〇〇円

40 同   年八月中旬頃 一、〇〇〇円

41 同 二九年二月中旬頃 一、〇〇〇円

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